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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(あ)5604号 判決 1954年7月16日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人朴炳斗を除く被告人崔洪烈外五名の弁護人植木敬夫外九名の弁護人の上告趣意第一点について

所論は、違憲をいうが、原審裁判官が、被告人等は朝鮮人である故に予断偏見をもって裁判をしたという事実は、記録上これを認めることができないし、その実質は事実審の専権に属する証拠の取捨選択及びその価値判断並に事実認定を非難する主張に帰し適法の上告理由に当らない。

同第二点について

騒擾罪にあたる事実を判示するには、多衆が集合して暴力または脅迫の行為をしたことを明らかにすれば足り、特にその行為が地方の静謐を害しまたは公共の平和を害する虞のあることを判示する必要はないものであり(昭和二六年(れ)九〇八号同二八年五月二一日第一小法廷判決、集七巻五号一〇五三頁)、騒擾罪は多数聚合して暴行脅迫を為すに因りて成立し其の地方の静謐を害することを要件とするものでない。(大正一三年(れ)一〇〇九号同年七月一〇日大審院第二刑事部判決、刑集三巻五六四頁)そして、原判決の是認した第一審判決は、被告人等(被告人朴炳斗を除く)多衆が集合して襲撃、破壊、暴行、脅迫をした事実を認定していることが判文上明らかであり、右事実認定は同判決挙示の証拠により肯認することができるから、所論は違憲をいうが、原審裁判官が被告人等が朝鮮人であるとの人種的差別による予断偏見のもとに裁判をしたという事実は、記録上これを認めることができないし、その実質は事実誤認、訴訟法違反の主張に帰し上告適法の理由に当らない。

同第三点について

原審公判調書に、立会人国兼弘道は、下関騒擾事件現場写真(第一号、第二号)及び下関騒擾事件検証写真(第三号)に基いてそれぞれの現場において、当時の状態を説明した、と記載されていること及び右写真が検証調書に添附されていることは、所論のとおりであるが、右写真は、右立会人が検証の現場において、当時の検証の地点、目的物その他必要な状態を指示説明するため検証の手段として用いたにすぎないものであって、所論のように立会人を証人として尋問すると同一の効果を得るために用いたものとは認めることができない。されば、原判決は、右適法な検証の結果を、第一審判決の事実認定の当否を判断するための一資料に供したものと認められるから、違憲の主張は前提を欠くものである。

同第四点について

一、法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお、本案の裁判に対する上告の理由がないときは、訴訟費用の裁判に対する不服の申立は不適法であるのみならず原判決が、その主文において「当審証人原田才市、同李甲録、同国兼弘道、同鄭穆載、同金義伯、同鄭鎮考に支給した費用は、被告人等(但し金作支、朴炳斗を除く)に於て当審に於て併合審理した相被告人と連帯して負担すべきものとし」と判示していることは、所論のとおりであるが、原判決の主文において判示しているところは、前記証人に支給した費用は、原審において併合審理をした多数の相被告人の中、原判決が分離して言渡をした各判決の主文において除外した各被告人には、費用の負担をさせなかった趣旨であると解することができるから原判決には所論の如き違法は存しない。)

同第五点について

記録によると、原審は昭和二七年一一月一一日の公判期日において、出頭した被告人李一根に対し次回公判期日を告知しており(記録一一一七丁)右以外の不出頭の被告人崔洪烈外五名の被告人に対して同年一二月二〇日の公判期日の召喚状を書留郵便に付して送達しているから(記録一一七三丁ないし一一七八丁)、違憲論は前提を欠くものである。

同第六点について

違憲をいうが、原審裁判官が良心を放棄し、自己の政治的偏見に従って裁判をしたという事実は、記録上、これを認めることができないし、その実質は採証法則違反の主張に帰するのである。なお、第一審判決は、所論の証人鄭穆載、金義伯、朴田性の各証言を証拠に採用していないし、同判決を支持した原判決も右各証人の証言について何ら説明をしておらず、また、第一審判決挙示の証拠その他記録を吟味するに、所論のように民団側の者が朝連側の者を陥入れるため予め虚偽の証人を用意して虚構のことを証言せしめたため被告人等が本件に連座するに至ったものとは到底認めることができない。

同第七点について

原判決の是認した第一審判決は、同判決判示の各被告人が多衆に優越してその騒擾の勢を助長する行為をなした事実及び多衆と共同して自ら暴行をなした事実を判示していることが判文上明らかであり、必ずしも所論の「他の者等の先頭に立つ」というような事実を判示する必要はない。そして所論大審院判例の判決要旨は、「多衆が一集団を為し将に暴行脅迫を開始せんとするに臨み、其の集団に向い其の決行を促す趣旨の演説を為して之を煽動鼓舞し因て多衆をして勢を得て目的の場所に殺倒せしめ暴行脅迫を為すに至らしめたる者の如きも刑法第一〇六条第二号に所謂卒先して勢を助けたる者に属するものとす。」(大正八年(れ)七四一号同年六月二三日第二刑事部判決、刑録二五輯八〇〇頁)というのであるから、原判決は所論判例に違反するものではなく論旨はその理由がない。

同第八点、第九点、第一〇点について

いずれも採証法則違反、事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

被告人崔洪烈、同黄炳旭、同金永泰、同金学洙、同慎政範、同李一根の各上告趣意は、いずれも事実誤認、訴訟法違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。被告人朴炳斗の弁護人山形園松の上告趣意は、量刑不当の主張、又は再審の請求をすることができる場合にあたる事由があるというのであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

よって刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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